良かれと思って、全部やってあげる。そのほうが速いし、本人もラク。——でも実はそれ、本人の“できる”を少しずつ奪う「引き算の介護」かもしれません。同じ手助けでも、力を足すか、引くか。今日は、毎朝の「着替え」を例にお話しします。

着替えには、こんなにリハビリが詰まっている

「着替えなんて、ただの身支度でしょ?」——いえ、作業療法士の目で見ると、着替えは動作の宝庫です。

  • 今日の服を選ぶ(判断する)
  • 袖に通すために腕を上げる・伸ばす(肩・腕の運動)
  • ボタンやファスナーをつまむ(指の細かい動き)
  • ズボンを上げるために立つ・片足で立つ(バランス)

つまり着替えは、判断・運動・バランス・指先を全部使う、一日の中の立派なリハビリ。これを毎日やれるなんて、こんなに良い機会はありません。

引き算の介護|“やってあげる”が奪う

ところが、忙しい朝、つい全部やってあげる。服を選び、腕を持ち上げ、ボタンをとめ、ズボンを上げる。——速いし、ラクです。でもこのとき、さっきの「選ぶ・上げる・つまむ・立つ」が、全部、本人から消えます。

使われない力は、どんどん衰えます。よかれと思った“全部やってあげる”が、本人の力を引き算し、結果、もっと介護が大変になっていく。これがいちばん避けたい悪循環です。「最適で、楽々な環境」は、ときに本人を弱らせます。

足し算の介護|できる所は、本人に残す

やることは、すごくシンプル。できる部分を、本人の力のまま残すだけです。

  • 服は一緒に選ぶ(「赤と青、どっちにする?」)
  • 袖通しは見守る。難しいボタンだけ、そっと手伝う
  • 立てる人なら、ズボン上げは手すりにつかまって自分で

全部を本人に、ではありません。できない所は手伝う。でも、できる所まで奪わない。その線引きが「足し算の介護」。毎日の暮らしが、そのままリハビリに変わります。

💬 まずは1つだけ いきなり全部は大変。「ボタンだけ、お願いね」——今日はそれ一つでOK。本人が自分でできた“1つ”が、明日の力を保ちます。慣れてきたら、少しずつ“本人の担当”を増やしていきましょう。
🗣️ りはすけのひとこと 「優しさ」って、難しいんです。全部やってあげるのも優しさ。でも、できることを奪わないのも、優しさ。むしろ後者のほうが、本人の“その人らしさ”を長く守ります。
特別な訓練の時間なんて、いりません。着替え、歯みがき、食事——日常の一つひとつが、最高のリハビリです。この「日常をリハビリにする視点」さえ持てれば、毎日が変わります。これは、おうちリハがいちばん大事にしている考え方です。

まとめ

  • 着替えには判断・運動・バランス・指先=リハビリが詰まっている
  • 引き算の介護=全部やってあげて、できることを奪う
  • 足し算の介護=できる所は本人に残す(一緒に選ぶ・見守る)
  • できない所は手伝う。でも、できる所まで奪わない(→ポイント介助
  • まずは「1つだけ本人に」から
この記事はおうちリハの基本的な考え方をまとめた一般的な読みものです。どこまで本人に任せられるかは、その方の状態によって異なります。無理はせず、個別のことは医師・ケアマネジャー・担当のリハビリ専門職にご相談ください。